円形道路の中心で、何か祈る

円形の道路がある、船橋の行田に。地図で確認するとおどろくほど丸い、そして大きい。曇天のもと歩いてきた。

ミステリーサークルの謎に迫らない

千葉県船橋市の行田に、巨大な円がある。直径約800メートル、異様なまでに正確な真円は一体いかにして形作られたのか? その目的は? ミステリーサークルの謎にせまる――。という切り口で、内容を引っ張って展開させようとしたが、すでに有名な話らしく、ネット上でも円に触れた記事が散見されるので、いまさらである。

旧日本海軍の無線施設だったらしい。電波塔の主塔を中心として、複数の副塔で取り囲む構造になっていたため、塔同士を連結する配線にかかる力の均衡をとるようにして円形になったそうである。周囲に沿って道路が造られたが、昭和46年に無線施設は解体され、いまの円形道路だけが残ったというのが、このミステリーサークルの由来である。

ミステリーの種を明かしてしまったので、以下では実際に道路を歩いたときの見え方や感じたことなどをレポートする。

異界を感じさせる曇天の船橋

西船橋駅前

西船橋駅前

ただならない雰囲気の給水塔

ただならない雰囲気の給水塔

JR西船橋駅から、円のある行田団地方面に向かう。駅前のターミナルから、行田団地行きのバスが出ていたので、それを使えば数分で着くはずだ。しかし、バスには乗らなかった。心の準備ができていない状態で、円の中にうっかり侵入してしまうことを恐れたからだ。

何を恐れることがあるのかと言われるかもしれないが、円である。巨大な真円に魔法陣的な呪術性を感じるのは私だけだろうか。もし、行田の円が魔法陣的な力を(その意図がなくても)帯びていたとしたら、円の内部にバスで乗り入れることは異界への門をくぐることに等しい。船橋市民は日常で円に触れているから、平然としていられるが、私のような他所の者が円に入った場合、どうなるか保証はない。それなりの覚悟がいる。

「円に入る前には、一周してから」という儀式を勝手に作って行うことにした。この儀式に効力はないだろう。気持ちの問題である。しかし、そうせずにはいられない圧力が曇天の船橋にはあった。

巨大すぎる円、時計回りか反時計回りか

円の接点となった私

円の接点となった私

円周にあたる道路。まっすぐに見える

円周にあたる道路。まっすぐに見える

駅から歩いて20分ほど経過して「MapFan+」を確認したとき、ついに私が円の接点となったことを知った。目の前を横切る道路が円の一部であるという実感がしないのは、ゆるいカーブを描いているようにも、まっすぐにも見えるためだろう。地図などで上空から俯瞰しないかぎり、ここが円周上であることに気づく人はいないと思われる。それほど円周が長いということだ。巨大すぎる円を前に、畏怖の念が止まらない。

さて、問題はどちらから回るかだ。時計回りか、反時計回りかである。北と南に円を貫く県道9号線の接点を、それぞれ時計の12時と6時に見立てると、現在地は7時に位置する。そこからどう動くか、悩み、足がすくむ。誤って作法を破れば、取り返しのつかないことになりかねない気がする。

「あの、この環状道路、どっち回りに行くのがいいですかね、オススメとかってあります?」

まさか地元の人に聞くわけにはいかない。勇気を出し、直感で西船幼稚園方向へ歩き出した。反時計回りである。時を遡るというメタファーを含むこの行為がどのような因果となるか恐れながら。

ダンチ・ダンチ・ダンチ

いたるところで団地案内図を目にする

いたるところで団地案内図を目にする

円内施設の割合を表す円グラフ(だいたい)

円内施設の割合を表す円グラフ(だいたい)

曇天の下を黙々と歩く。時折小雨がぱらつくが傘をさすほどでもなく、止み、日が差してきたと思ったら、ふたたび曇天になる。天候がころころと変わるのは、私が反時計回りをしているからではないかという疑念に駆られ、「行田、はじまったな」と思う。

円の外側から内部を眺めると、まず目に入るのは団地である。地図によると、行田団地だけで円の内部の40パーセントが占められている(円グラフみたいになっているから割合が出しやすい!)。そして、行田公園の林が見えてくる。行田公園は東西に広がっており全体で30パーセントはある。さらに行くと、税務大学校東京研修所、行田中学校、行田西小学校、行田東小学校などの教育施設。そして、再び団地である。惜しいのは高校がないことである。高校があれば、小中高大と学校生活を円内で送り、さらにここで就職をすれば、円から出ずに一生をすごすことも可能だ。そういう人もいるのだろうか。いないだろう。

フナ・グラビティ

円の南側の入口。クルマが吸い込まれていく

円の南側の入口。クルマが吸い込まれていく

横断歩道の押しボタン。この世のものとは思えない

横断歩道の押しボタン。この世のものとは思えない

左側に円の存在を認めつつ、ちらちらと内部に目をやりながらひたすら歩く。相変わらず道路がまっすぐ見えるので、自分が円周上を歩いているという実感はほとんどないが、意識は常に左側に引っ張られている。まるで天体が持つ引力のようである。自分が宇宙空間で定まった軌跡を進行するひとつの衛星になったような気分になってくる。こんな詩的な気分で船橋の円形道路を歩いているのは私だけだろう。

円周約2.5キロメートル。30分ほどで私は出発地点にもどって来た。天候も日照の加減も出発時とほぼ変わりない。ちょっとした達成感と、だから何なのだという自問で、胸が満たされた。儀式は終わった。いよいよ円の中に足を踏み込むことにする。

円の中心で、何かさけんだらおかしな人

円の中にあるお肉屋さん

円の中にあるお肉屋さん

船橋無線塔記念碑

船橋無線塔記念碑

円の南側、時計で表すと6時の方角から、県道9号線に入る。円を真っ二つに縦断する道路である。乗用車やトラックがひっきりなしに円の中心に吸い込まれていく。運転手たちは、自分が円を突っ切っていることを自覚しているのだろうか。そして円を突っ切ることによって起こっているかもしれない、人智の及ばない微妙な変化のようなものにも(そんなものはないとも思う)。

円の中には、外から眺めたときからわかっていたが、団地が整然と立ち並んでいた。道路沿いには、コンビニ、診療所、幼稚園などがあり、少し奥に年季の入った行田商店街があった。円内で暮らす人びとの生活に思いをめぐらせる。消防署を後にして円の中心に差し掛かる。行田公園だ。私が訪れたのは平日の午後だったが、だれもいなかった。船橋無線塔記念碑の前に立つ。碑文によると、船橋海軍無線電信所が創設されたのが1915年。海外と電波の交信をする際の重要施設で、この電波塔の存在が、世界地図に「フナバシ」の地名が書き込まれるきっかけになったそうである。

祈り

記念撮影。記念碑が枝葉で完全に隠れた

記念撮影。記念碑が枝葉で完全に隠れた

円の中心の歩道橋より。なぜか敬虔な気持ちになった

円の中心の歩道橋より。なぜか敬虔な気持ちになった

円の中心は、かつての日本の情報交信の中心地でもあったのだ。そう思うと、いま・ここに立っていることが誇らしく感じられ、あわよくばご利益的なものを授けられるのではと、パワースポットにあるようなものを期待する。なにしろ円の中心である。

私は円を縦断する県道9号線に掛かっている歩道橋に上った。中心の感じをより味わうために、より高いところを目指したのだ。ご利益も高いところの方が、盛り上がっているに違いない。歩道橋のフェンスが新設されたばかりで、工事中の防護ネットが張られていたため、景観はよいとは言いがたい。しかし、360度を見渡すことができる位置に立って呼吸を整えると、正体のわからないエネルギーが天から降り注いでいるような気がしてきた。

気が付くと、突き動かされたように私は熱心に祈っていた。行田の円形道路の中心で、世界の平和、人びとの健康、MapFanの発展、さらに私に莫大な金が入ることを一心に祈っていたのだった。

※記事内の情報(営業時間や金額等)は公開当時のものです。実態と異なる場合がありますので、ご注意ください。

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