地図でいく!妄想旅行のすすめ

妄想旅行とは、地図を眺めて妄想を膨らませることで、家から一歩も出ずに旅気分を味わう遊びである。「いい旅、夢気分」というテレビ番組があるが、その逆だ。妄想で夢を描けば、旅をした気分になれるのだ。「いい夢(妄想)、旅気分」という逆転の発想。さあ妄想の旅に出よう。

妄想旅行のすすめ

連休中のレジャーといえば旅行が代表的だが、誰もが旅に出られるわけではない。何かしらの理由で旅行ができない人もいれば、ただ家でじっとしていたい人もいる。そんな人たちにおすすめしたいのが妄想旅行だ。妄想旅行とは、家から一歩も出ずに旅気分を味わう遊びである。うまくやれば実際に旅行をするより楽しめることもある。本物の旅行ほど時間がかからないうえに、お金も体力もいらない。必要なのは妄想力だけである。

それではさっそく妄想の旅に出よう! と言いたいところだが、たとえ妄想であっても計画が必要だ。計画が緻密であるほど妄想の強度が高まり、旅気分が深まるのである。

旅の仲間と目的地を決めよう

妄想ならどこへでも行ける

妄想ならどこへでも行ける

外国人と旅することも

外国人と旅することも

妄想旅行の第一歩は、行き先を決めることだ。妄想なので行きたいところを自由に設定してもよいが、気を付けたいのは、行って帰ってくることが現実的に可能な行き先にすることだ。行こうと思えば大概どこへでも行けるが、鍵は時間の制約である。妄想の中で一泊するか二泊するかで、行動範囲が変化する。妄想なのだから何泊でもいいのでは? と思うかもしれないが、それではリアリティに欠ける。入門者は日帰りか一泊二日で行ける場所がよい。

次に、同行者を決める。妄想の旅の仲間である。ひとり旅もよいが、できれば仲間がいた方が妄想が広がる。友人、家族、恋人、結婚相手、人妻など自由に決めてよい。具体的な人物である必要はないが実在している方がリアルなのは言うまでもない。架空の人物ならキャラクターを作り込んでおく必要がある。

交通手段を決めてルートを引こう

1日目のルート

1日目のルート

2日目のルート

2日目のルート

目的地と同行者が決まったら、旅の行程作成に取り掛かる。交通手段はクルマ、鉄道、フェリーなど利便性と同行者のキャラクターを考慮してルートを考える。同行者が老人なら徒歩を避けたり、渋滞すると助手席の同行者が不機嫌になるならクルマを避けたりと工夫が必要だ。MapFanを使ってルート検索をして、移動にかかる所要時間を算出する。

妄想だからといって、現実にありえない移動をしたらリアリティを失うので気を付けること。繰り返しになるが、リアリティの地道な積み重ねこそが、妄想に強度を与える。西村京太郎氏のトラベルミステリーに見られる緻密な時刻表トリックは、時刻表という確固たるリアルがあるからこそ架空の事件が現実味を帯び、トリックの巧妙さがより際立つのである。妄想旅行も同様である。MapFanでルートを引き、鉄道なら乗換検索を駆使する。鉄道マニアは時刻表を眺めているだけで、列車に乗った気分になれるという。妄想旅人の鑑である。

妄想旅行の行程表を作ろう

1日目の行程

1日目の行程

2日目の行程

2日目の行程

今回の例では、一泊二日で熱海へ恋人と行くというオーソドックスな妄想旅行を実例として示す。ちなみに私は熱海に行ったことはなく、恋人もいない。行程は上記のように作成した。熱海駅を起点に初日は南側、翌日は北側をめぐる。観光情報サイトを参考に行きたいスポットをピックアップし、それらをつなぐルートを導き出す。この作業は本物の旅行の行程を考える場合と同様である。妄想旅行が異なるのは、実際には行かないので妄想の燃料になる写真や文章をきちんと整理して保存しておくことである。特に画像検索結果、グルメサイトの写真・レビュー、実際に行った人のブログ記事は欠かせない。

同行者のプロフィールは作成しているうちに生々しくなったため紹介しないが、架空の人物やタレントなど詳細が明らかでない場合はディティールまで描き出すことが肝要だ。どれだけ赤裸々に恥を捨てて取り組めたか、妄想に対する真摯さが妄想旅行を実りあるものにするか陳腐なものにするかを分けるのである。

いよいよ妄想旅行スタート

熱海駅前

12:54熱海着の東海道線を降り改札を出る。強い日差し。海が近いのか、心なしか風に潮の香りを感じる。駅の裏が緑の丘になっていて長閑だ。鳥の声。朝食を抜いてきたのでお腹が空いている。「少し遅れる」と彼女から連絡があったので、先にレンタカーの手続きをする。いまどきめずらしくカーナビが付いていないクルマだった。だけど、「MapFan+」があるから大丈夫。クルマを東口のロータリー近くに寄せると彼女(新垣結衣似)が旅行用のボストンバッグを両手にぶら下げて待っているのが目に入る。まだぼくに気づいていない。しばらく見とれる。

彼女を乗せてクルマを出す。田原本町を左折してトンネルを抜けると海だ。ゆるい坂を下って熱海サンビーチ沿いを走る。春の海は青く澄んで穏やかで、小さな波が延々と連なっている。この光景を見れただけでも来た甲斐があったねと笑う。

5分ほどで最初の目的地である洋食屋スコットへ。スコットは歴史ある洋食屋で、ぼくらが入ったのは新館の方。うまいと評判のタンシチューを注文する。コクがあって濃厚なシチューに肉厚のタンが煮込まれていて気を失いそうになるほどうまい。彼女はハンバーグと鯵のサラダ。分けあって食べる。彼女の内巻きにカールしたやわらかい髪にパンくずが付いているので腕を伸ばして取ってやると、ぼくの後頭部にべったりと米粒が付いていることを指摘された。米の乾き具合からすると、どうやら家から付けてきたみたいだ。朝食は食べていないから、昨晩食べたもの――寿司? だとしたら酢飯、どうしよう。慌てふためいていると、彼女が言った。

「そういうところが好き」

このように妄想旅行は続いていくのだが、書き出したら短編小説になってしまうのでここまでにしておく。旅のクライマックスは熱海秘宝館から温泉旅館のくだりにあるのだが、私にしかおもしくない内容と思われるため、各自でそれぞれの妄想旅行を練り上げてほしい。

地図からはじまるストーリー

熱海サンビーチ沿いは潮の香りがする(はず)

熱海サンビーチ沿いは潮の香りがする(はず)

ロープウェイと山道、夜景も美しい(はず)

ロープウェイと山道、夜景も美しい(はず)

前述のように、妄想旅行は多くの情報を手掛かりして進行させていく。そのベースになるのが地図である。目的地までのルートを引き、所要時間を計算することで、場所に時間の概念が加わる。これにより、ある時刻における自分の位置が決まる。あとは、その時間・その位置に立ったら、何がどのように見えるか、どのような雰囲気を感じられるかを地図を眺めて汲み取る。できるだけ五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を使ってイメージをする。ルートをゆっくりなぞりながら、ときに信号で停まったり、コンビニに寄ったり、通りや河川、気になった施設の名称を検索して外観や由来などを調べる。実際に訪れる人よりも広く情報をキャッチするくらいの気概があるとよい。

現実の旅行は一回きりだが、妄想旅行ならいくつものパターンを経験することが可能だ。同じ妄想旅行を最初から最後まで再演することも、名シーンだけをリピートすることも、やり直しもいくらでもできる。まるでパラレルワールドに生きているような感覚になったら、すでに妄想旅人だ。

帰ってこよう

帰ってこなくちゃ旅じゃない

帰ってこなくちゃ旅じゃない

妄想を語るときは熱心に

妄想を語るときは熱心に

旅には必ず終わりが訪れる。妄想旅行も例外ではない。いくら楽しいからといって、妄想のしすぎで現実に帰って来られなくならないように注意が必要だ。妄想旅行の思い出は、そっと胸にしまっておくのが無難だが、旅行記を書いておくと時間がたってもはっきり思い出すことができる。

相手を慎重に選ぶ必要があるが、人に話すのもよい。相手に妄想だと悟られないように話すことで、妄想の細部まで明確になる。また、聞き手による質問で第三者視点から妄想を俯瞰できるため、ひとりよがりになることを防ぎ、妄想に起伏ができ、広がりと深みが増す。多くの人に話すほど脚色が加わり、口頭伝承され、いつしかハリー・ポッターのような作品になるかもしれない。自分で話していて妄想か現実か判別できなくなったらしめたものである。

以上が妄想旅行の概要である。MapFanを使ってぜひ試してほしい。私は本物の彼女と熱海旅行がしたい。

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