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沿線めぐりシリーズ第2号 わが名店を、こよなく愛するこの人。 〜東急東横線編〜

都内でも人気の沿線、東急東横線。
この沿線には、食通たちを唸らせる“食の名店”が立ち並びます。
はたして、真の意味での名店とは、どういう店なのだろうか。
最終的に私たちが辿り着いたのが、小さいながらもこつこつとがんばっているお店。
そして、取材で訪ねた先にいたのは、“わが店を、こよなく愛する人たち”でした。
この一皿、この一品に込められた作り手の思いこそが、食の愉しみ方を教えてくれるのですね。


祐天寺駅 キクヤベーカリー  店主 小林慎吾さん

「キクヤベーカリー」の詳細 >>


「三食サンド」200円
ごくごく普通なのに、素朴で優しくて、噛めば噛むほど味が出る不思議なサンドウィッチ。

深夜0時に行列ができるパン屋さん

深夜0時、祐天寺の真っ暗な商店街を歩いていると、一軒だけ灯りが点り、長い行列のできている店がある。

創業50年以上になるという『キクヤベーカリー』は深夜1時に開店し、売切れ次第閉店する。開店1時間前の深夜0時には行列ができるという、恐るべしパン屋だ。

どうしてパン屋だったのか

この店の主は現在85歳のおじいちゃん。この道50年になる小林さんは、以前は大企業や生協の売店で1日1000個以上のパンを売っていた。

この店を始めるようになったのは、当時パン工房の前を通った近所の人に、「パンの美味しそうな匂いがするから売って」と頼まれたことがきっかけだった。

以来小林さんは、仕事を終えた後の深夜に、近所の人のためにパンを焼いた。それがいつしか近所で評判となり、50年を経て現在に至ったという。

そもそも、小林さんはどうして“パン”だったのか。

今から60年も前の終戦間近の頃。米はもちろん食べるものなんてほとんどなかった。「この貧しい国をもっと豊かにしたい」そんな思いから、小林さんはパンを焼き始めたのだという。

『キクヤベーカリー』の“キクヤ”は、陸軍時代の小銃についていた菊の紋章から名付けた。この店は、戦争の悲惨さを忘れまいと、必死に頑張ってきた証なのだ。

これからも焼き続ける

「パン作りは単純だからこそ、難しいし楽しい」と小林さんは言う。

昔ながらの変らない製法は、天候や気温で発酵や焼き上がりが全然違ってくる。焼き上がるまでに毎日10時間以上はかかるというパン作りは、85歳のご老体には相当な負担だろう。

「美味しいと言われるのがうれしいから辞められない。お客さんがいなくなった時が定年」そう笑って話す小林さんは、心の底からパン作りが大好きなのだ。